同名小説を映画化。普通の会社員・北原の元に開戦通知表が届く。どうならとなり町と戦争が始まるらしい。公務員である香西に頼まれ、となり町の偵察に任命される北原。戦争をしている気配がまったくない日常。しかし増えていく戦死者。やがて北原は戦争のリアルさを知ることになり・・・。
たくさんの戦争映画を見てきたが、本作はそんな戦争映画の中でもかなり異質な作品。作風は少々シュールでどこかコメディっぽい。しかし、本作は見掛けによらず恐い映画。前半からは想像出来ないほどの恐ろしさを後半で描いている。
戦争をしているというのに、自分の生活は何一つ変わらない。戦争をしている実感がまったくない主人公・北原。そして戦争は業務と考える香西。二人の登場人物のおかげで、戦争の恐ろしさが明確に示されてる。自分が直接人を殺していなくても、戦争に参加しているということだけで人殺しになってしまう恐怖。主人公・北原の上司が映画の中で言う一つ一つの言葉にも重みがある。「戦争してるのはハリウッドスターじゃない。そこらへんにいるおっさん何ですよ。」、「仲良くしましょうよ。戦争をしていた国とも今は仲がいいでしょ?」。本作ではこの上司が鍵となってくるので注目するべきだろう。
戦争をしている実感がないというのは、まさに現代人だからこそ。しかし確実に戦争は激化していて、気付けば取り換えしのつかないことになっている。戦争のリアルさを非常にシュールに描いた良く出来た作品。戦争シーンが一つもないのが、さらにリアルさを増している。
二つの地方都市の統合を巡り、ネット上で激しい反対論が巻き起こる。 実生活上は平穏な空気が流れているが、反対派の主張する「陰謀」は本当に存在するのか?
というところから始まる話ですが、主人公は二つの町にまたがる様々な立場の人と出会い、 その数だけある「真実」に触れ、何を信じるべきか悩み、二転三転していきます。
そこに絡んでくる要素は、 「ネットにあふれる民意」、「ネット右翼」、「歴史認識(史実と真実)」、「思想教育」、 「情報操作」、「ネット経由のデモ」、「ステルスマーケティング」、などなど。
考えさせられたり、恐くなったりしながらもとても面白かったです。
ネット環境なんてほとんどなくて、個人が労力をかけずに知りうる情報は今の何十分の一という時代は、 思えばほんの20〜30年前のことです。
現在、情報量は飛躍的に増えたものの、作為の働いた「真実らしきもの」に取り囲まれた中で、 何をもって判断し、何を自分の真実として信じるのか。 そして、もしそれを他者に掲げるのなら、その責任ある「掲げ方」とは何なのか。 情報の奔流の前で立ちすくむのか、 それとも物事の裏にある作為や捏造をも飲み込んで、自分の意見を固めて前に進むのか。
三崎さんの作品はすべて読んでいますが、 もっとも多くの要素が、もっとも輪郭のハッキリした形で織り込まれた作品でした。
三崎氏の小説には、どう考えても非現実的なのに、 不思議とリアリティを感じさせる奇妙な説得力に富んでいて、 本書においても、明らかに「現実」では有り得ないのが分かっていながら、 どれもこれも、短編で読むには勿体無いくらいの凝縮された、 「世界図」を感じずにはいられない面白さ、楽しさに満ちています。
「七階」も、「廃墟」も、「図書館」も、「蔵」も、 物語を設計するガジェットの一言で処理するには本当に勿体無い。
|