70年代にLPレコードにて発売された、現代ギター界をリードする2人の巨匠による夢の共演が2枚のCDに蘇った。他のデュオでは実現不可能な圧倒的な演奏力、常にライバル関係にある2人の激しい火花を散らすような共演が聞き物。 クールな音色でマシンのような正確な弦さばきのジョン・ウイリアムスにたいしてブリームの包み込むような音が交差するクラシック・ギター二重奏の決定版ともいえる。ライブ録音も含まれているが、スタジオ録音とほとんど聞き分けの出来ないほどの完璧な演奏。なかでもソルのアンクラージュマ(慰め)、ファリアのスペイン舞曲一番は絶品。ラベルの無き王女の為のパバーヌの後半、主題に彩られたアルペジオはギターでしか味わえない極上の世界。
クラシック・ギターの大御所といえばアンドレス・セゴビアの名を挙げなければならないが、私達の時代にギターの魅力を満喫させてくれた天才が英国出身のジュリアン・ブリームだ。この10枚組のセットは、彼がこれまでにシングルでリリースしてきたものの集大成で、ギタリストとしても驚異的なレパートリーを誇る彼のフレスコバルディやバッハからパガニーニ、メンデルスゾーンそしてドビュッシー、ヴィラロボス、ロドリーゴなどの作品が堪能できる。またリュートの奏法にも秀でていた彼は、4枚目でウィリアム・バードを始めとするルネサンス時代の作品集でリュート演奏も披露している。今ではスタンダード・ナンバーになってしまったロドリーゴの『アランフェス協奏曲』も63年のコリン・デイビス指揮、メロス室内管弦楽団の演奏を初めて聴いた時の鮮烈さは忘れることができない。民族色をより強調した演奏は他にもあるが、その垢抜けた洗練の極みのようなテクニックと美しい音色はやはり替え難い魅力を持っている。それは10枚目のスペインの作曲家の作品集にも言える。フラメンコの情熱が迸るような演奏とは一線を画していて、常に明瞭で透明感のある表現が、かえってこうした曲の性格を活かしている。
彼は78年にセゴビアの弟子だったジョン・ウィリアムズとデュエットを録音した。それが9枚目にあたるが、技術的な面は勿論のことだが、また音楽的にもこれだけ質の高いギターのデュエットは滅多に聴けるものではないだろう。ブリームは現在でも存命だが、84年に起きた交通事故で腕を痛め、その後快復はしたものの近年は事実上演奏活動からは引退しているようだ。このセットは幸いにも彼の全盛期の充実した記録であり、クラシック・ファンだけでなく、ギター愛好家を自称する方にも是非お勧めしたい。ライナー・ノーツは31ページで、曲目及び録音データの他に9枚のスナップと英、仏、独語による簡単な演奏家紹介がある。尚それぞれのジャケットにはリリース当時のオリジナル・デザインが印刷されている。
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