中国新幹線事故の大惨事が予言するような、今後の未曾有の混乱は不動産を始め中国にはいくらでもあり得る。利権に群がる汚職、地下鉄の無茶な拡大、辺境にも乱立する高層ビル、至る所に空港建設、生産過剰の自動車の在庫、原発400基体制プラン、大躍進の中国の状況は、計画の頓挫、挫折の拡大、経済の大幅失速が控えている。本書は宮崎正弘氏が中国全土の新幹線に乗り、危険を冒して各地を周遊し、中国の今、将来を幅広く解説する。よって浙江省温州付近の中国高速鉄道事故だけではない。カネの為なら何でもする中国人、本書には中国ならではの恐ろしい情報が満載だ。 貧困地域の生活は厳しく差別が酷い。ダム建設には強制立退きで極僅かな補償金、警察の横暴な取締り、日頃から人民は警察・公安を敵視しているから不満の爆発チャンスは多い。2011年6月中旬に広東省増城市で数万人規模の暴動があったらしいが報道されていない。四川省からの出稼ぎ夫妻へ警察が暴力のようだ。しかし中国の暴動は230万人の軍隊、120万人の武装人民警察、30万人の公安ネット対策チーム、7200万人の共産党員網の支配と武力弾圧で抑えられる。それでも日本企業襲撃、工場焼打ちのリスクは高まる一方だろう。 水不足は死活問題だ。湖底の地割れは拡大し、三峡ダムの貯水は2割程度、干し上がった華北、その途中の華南、水質汚染は最悪で、地下水の病原菌も深刻だ。 1994年4月から泰山原発が運転開始し、今後多くの原発が急増するが、手抜き工事、低い技術レベルで、非常に危険と言われる。原発事故が起きれば偏西風の風下は日本だ。また原発輸出を推進する。 警視庁によればサイバー攻撃の発信元の9割が中国だ。世界ハッカー戦争は中国と北朝鮮がキーだ。 子供の誘拐と売買が深刻で、子供の放置は絶対にいけない。(1)子供の時に意図的に身障者にして物乞いをさせるビジネス、(2)海外に里子に出すビジネスで、有名ホテルのカフェラウンジも取引の場と言う。 共産党幹部の海外逃亡が4500人、持ち逃げした資金が1000億ドル、いずれも公式発表だから実際はもっと多い。 中国の昨年第4四半期(2011年10〜12月)GDPは前年同期比8.9%増で、通年も同9.2%増で、鈍化してきた。大幅な金融緩和で物価が高騰すると暴動が起きる。
鉄道建設&運営と、時の政治情勢との関連を考察したものである。新書版で、表紙カバーにJR大船渡線の地図があしらってあるのが目を引く。
内容であるが、表紙カバーから想像されるような単純な「我田引鉄」の歴史を列挙したものではなく、日本の鉄道の建設と運営にいかにその当時の政治状況が反映されてきたか、について各方向から分析を加えたものとなっている。もちろん大船渡線の例もあがっていて、そのような極端に直接的な影響の話も紹介されているが、そもそも明治初期に大隈重信が1067mmの軌間を選択した理由は何か、とか、東海道新幹線プロジェクトが政争の具にされないように佐藤栄作がとった手段はなんだったか、とか、なかなか含蓄にとんだ考察が展開される。
近年については、台湾新幹線プロジェクトの成功や、中国高速鉄道の事故、東日本大震災の被災鉄道復旧に向けた財政的検討など、時事的なネタにもいくつか触れているところは新書ならではか。欲を言えば、以上のような歴史をかんがみて、中央リニア新幹線の政治的取り扱いについても考察して、将来展望の章を最後につけるとなおよく締まったのでは。本書ではあまり触れてないが東海道新幹線の建設時だって、そんなに急いでどうする(在来線特急の片道6.5時間で十分早い)、とか、近代の万里の長城を作るつもりか(これからは航空機の時代)、とか揶揄されたものだ。
時計自体は色違いで気に入りました。クロノ、分針、リュウズの色が黄銅色がいまいち気になった。皮バンドの黄色のステッチは、いいですね。
この本は、中国共産党の支配の実態に迫ろうというルポルタージュである。著者のねらいは半分成功し、半分は不明である。とはいえ、中国観察者にとって読むだけの価値はあるだろう。中国人民7千万人を殺した毛沢東の圧政、文革後の「とう小平」の復活と開放経済。ソビエトがそうであったように独裁者の後は、集団指導体制という権力闘争のマグマを秘めた相互監視システムによる共産党利権の擁護が行われる。共産党員は、全ての分野の中枢を占め、見えない監視網で支配する。個人個人にどこまでもついてまわるにもかかわらず本人が読むことはできない「档案(タンアン)」(履歴、賞罰、密告等を記した身分証明書)は、一般民衆に不安と恐怖を与え、民心掌握のベースである。 もちろん、時代は変化しているであろう。著者のねらいはその変化と支配構造の実態を明らかにすることにある。「党とビジネス」「党と軍隊」「上海閥の腐敗」「党と地方」・・・著者は、その実態にメスを入れようとする。しかし、腐敗撲滅運動のように「トラが報告書を作り、キツネが笑いながら手を叩き、ハエが楽しげにブンブン飛び、ネズミだけが通りで恐れおののく」(p258)実態があることは書けても、トラやキツネが具体的に党幹部の誰であるかは、明らかにすることもできない。それどころか、そのトラやキツネはインタビューに答えて「改革開放の時代を維持しているのは、莫大な数の党の中堅幹部だ。汚職によってこの体制は一層盤石になる」(p259)とうそぶいて憚らない。 著者は、末尾の「謝辞」に中国人スタッフの名前をあげる。また、「本書は中国外交部にはお気に召さないだろうが、海外で出版されるものにまで中国政府が過敏な反応を示すことはないだろう」と述べる。信じがたいことである。 1980年代、朝日新聞特派員舟橋洋一が帰国して書いた「内部」では、舟橋の情報源の秘匿が不十分であったため多くの中国人関係者が部署替えや労働改造収容所送りになった。アメリカに亡命した毛沢東担当医師、「毛沢東の秘密生活」の著者の怪死等、不審な事件は後を絶たない。著者は、中国共産党の本当に忌諱に触れることは書かなかった自信があるのかも知れない。もしそうであるならば、読後の微妙な「歯がゆさ」にもうなずけるのである。 (とうしょうへいの「とう」の字は、アマゾンではなぜか文字化けする。)
|