オピッツのピアノは、あくまで迷いなく歯切れ良い。聴いていて本当に気持ち良い。…表現のダイナミックスの広さ。男性ならではと思わせる力強さと生来の感性の豊さを感じさせるタッチの繊細さ。…理性、知性と感性のバランスの良さ。…バックハウスやケンプもいいけれども、たとえば、これだけ鍵盤を深々と押し込みながら、これだけ歯切れ良いのは、ただ年齢的な問題ではないと思う。今の時代を生きる人間ならではの感性、特にリズム感・呼吸あってのことだと思う。彼はそれを本当に豊かに表現してくれている。…ベートーヴェンは同時代の今の演奏こそ魅力的だ。この演奏を聴くとそう思う。
オピッツのこだわりようは凄いものがある。それは、なかなか知られていないベートーヴェン自身が編曲したOp.61のあの名曲ヴァイオリン協奏曲の編曲版の収録である。さすがに、この曲はヴァイオリンだろうと思って聴いてみると、ピアノ協奏曲として見事に成立しているから驚きである。それ以外にもオピッツによる推進力溢れる5曲の傑作たちは素晴らしい。全体的にテンポ設定は早めで、これはベートーヴェンが意図していたものに近いように思う。それでいて、粗い印象はなくむしろ洗練された語り口で曲を進めて行くところに関心させられる。ピアニズムの確かさは言うまでもないが、音色の美しさなど筆舌に尽くしがたい。輸入版で3枚セットとして発売されているほかに日本語版もあるようである。まさにベートーヴェンの核心、真髄を見事に味わわせてくれる名盤である。
名器ベーゼンドルファーを使用してのブラームスの全ソロ作品集。現代における、まさに理想的な演奏と言える内容だ。そのなかでも特に優れた演奏と言えるのは、ピアノ・ソナタ第3番Op.5だろう。この、ブラームスの代表作とも言える若き頃の難曲を、オピッツは、完璧な技巧と、溢れんばかりのブラームスへの愛情と深い音楽性をもって見事に表現しており、まさに文句付けようがない。その他にも名演が多々あるが、この全集はオピッツの録音の中でも最も優れた内容を備えた彼の代表盤と言える。
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