まやかしの安全の国 ―原子力村からの告発 角川SSC新書 (角川SSC新書)
東京電力福島第一原発事故の年がもうすぐ暮れようとしている時に、「原子力村住民」による告発本ということで一読した。事故後、ほとんどの「原子力村住民」が、頭の上を嵐が過ぎ去るのを待っているところ、「勇気ある告発」と言いたいところだが、やや期待外れだった。
著者は、1975年に日本原子力研究所(現在は日本原子力研究開発機構)に入所し、一貫して原子力安全性研究に携わってきたとのことだ(現在は退職)。スリーマイル島事故、チェルノブイリ事故、およびJCO臨界事故の解析にも携わってきたようだ。その点、本書は専門家らしくそつがない。
しかし、福島原発事故の解説では大きな疑問がある。それは、政府見解と同じく、事故の原因が津波襲来による全電源喪失にある、としている点だ。事故以来、田中光彦氏が雑誌『科学』の論文などで、「津波襲来以前に、地震により原子炉の主要配管が冷却水漏れを起こしていた」というシナリオを詳細に検討し、各種の観察事実で論証していることは周知の事実である。本書では、田中氏の論文への言及は全くない。これでは、「原子力村からの告発」を謳い文句にしながら、結局は地震に対する原子炉の根本的な脆弱性という、原子力村が絶対に触れたくない「不都合な事実」を隠す手伝いをしていることにならないか。
著者は、事故のトリガーが引かれた後の事故の推移分析の専門家ではあるが、原発やその事故の社会的・経済的・政治的な背景についての分析が不十分なので、残念ながら事故の未然防止に対する見解としては説得力が弱いのではないか、というのが本書を読んでの印象である。