『絵本 かがやけ詩』(あかね書房)
短篇集
柴田元幸責任編集の文芸誌『モンキービジネス』に掲載された短篇をメインに、そのほか、本書書き下ろしの二篇を加えたアンソロジー。日本人作家の作品が九つ、収められています。
評価を五つ星としたのは、最後に読んだ小川洋子の作品がとても素晴らしかったから。「『物理の館物語』」と題された短篇。ほかの短篇とはレベルが違うっていうか、本書のなかでもひときわ鮮やかな光を放つ珠玉の逸品。とりわけ、エンディングの四頁、この物語の着地のさせ方がパーフェクトと言っていい出来栄えで、深く魅了されました。
ほかの短篇では、クラフト・エヴィング商會の「誰もが何か隠しごとを持っている、私と私の猿以外は」、小池昌代の「箱」、石川美南(みな)の「物語集」に惹かれました。
冒頭のクラフト・エヴィング商會の一篇は、箱の中から箱が、さらにまた箱が・・・というマトリョーシカ人形みたいな話(と、左側に置かれたカラー写真)の仕掛け、その遊び心が楽しく、わくわくしましたね。
小池昌代の「箱」は、この入れ子式構造をちょいとひねって、< という文章が入っている賢い箱があった。>といった文章で繋げていくというもの。ひとつの話の奥に別の話があり、そのさらに奥にまた別の話がある・・・・・・みたいな話。賢い「色箱」が、最後にほんのりと桜色に染まる趣があり、そこの部分、ある俳句が出てくる辺りが特にいいと思いました。
もうひとつ。石川美南の作品は変わっていて、五・七・五・七・七の歌をつらつらと挙げていくスタイルの作品。幻想的な物語の風景が内包されている、そんな印象を受けるこの歌の数々がなかなかいいんですね。<覗きたる鏡の中に夜が来て山姥と化すむすめの話>とか<眠る犬のしづかな夢を横切りて世界を覆う翼の話>とかいう歌が、全部で四十六首。ダリの絵の風景みたような奇妙な夢を見た石川啄木が詠んだ歌、みたいな。実験的な作品なんだけど、予想外に好印象を持ちました。
本書のブックデザインは、クラフト・エヴィング商會。ヴァイオリンのイラストに作者名をあしらった装画が洒落てます。まるでこの本の中から、ヴィヴァルディの協奏曲が流れ出してくる感じ。<この人に書いてもらえたら最高、と思った9人が書いてくれました。 柴田元幸>という帯の文句も素敵ですね。
『絵本 かがやけ詩』(あかね書房)
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