争うは本意ならねど ドーピング冤罪を晴らした我那覇和樹と彼を支えた人々の美らゴール
「我那覇に秘密兵器、にんにく注射でパワー全開!」というサンケイスポーツの記事が事の発端だった。
まず、この記事を書いた記者の取材は適当だった。にんにく注射などではなく、ただの生理的食塩水を注射しただけだった。しかし、この記事を見たJリーグは、我那覇をドーピング違反として罰する。
2007年のことだが、なぜあの我那覇がドーピングなんて思ったことを覚えている。
ここからこの医療行為をした医師達と我那覇の孤独な辛い戦いが始まった。本書は、事実関係を丹念に当たっていき、当事者の医者達側からこの問題を描いていく。
Jリーグと各クラブの医師達との対立を感情的にならず、議事録を採録し解説していく。そして、丁寧にJリーグ側の無知や誰か(川淵チェアマン)に逆らえない構図を明らかにしていく。
結局医師達の戦いでは、Jリーグの裁定は変わらず、我那覇が登場する。それまで、真実を知らされてなかった我那覇は医師からの手紙を読み、自分の潔白、ひいてはこれからのアスリートのために立ち上がる。それでもJリーグは門戸を開かないというか、非を認めない。
最後は3500万もの金額を負担し、自分でCASに仲裁を申し立てる。我那覇の沖縄の先輩が、その金額の足しにでもなればと立ち上がり、沖縄から川崎にくるところから、満員電車で立って読みながらも涙が止まらなかった。
我那覇は一人ではなかった。選手会も立ち上がり、募金の輪が広がっていくプロセスは感動的だった。
CASの仲裁はシロだったが、それでもJリーグは翻訳を盾に取り非を認めない。これが、100年構想とかを訴えている団体のやることかと思うと情けない。
非常に丁寧に感情的にならず描いていく手法で、Jリーグの欺瞞を描いていく。そして、我那覇の姿も一方的に肩入れせずに描いている。
ここまで真実に迫ったノンフィクションは読んだことがなかった。お勧めの作品です。一読の価値ありです。