「ジキル博士とハイド氏」は二重人格者の代名詞になっているが、この映画は3人の異なる人格が1人の女性に内在するというストーリーで、話はさらにややこしい。それでもこの作品が分かりやすく、説得力があるのは、ジョアン・ウッドワードの素晴しい演技によるものだ。貞淑で、平凡な主婦のイブ・ホワイトと奔放で享楽的なイブ・ブラック、文字通りホワイトとブラックという正反対の人格を持つ2人のイブを演じ分けるジョアン・ウッドワードが凄い。メークも使わず、端正な表情、丁寧な言葉使い、折り目正しい居住まいの女性が、突然、妖艶で、下品な言葉使い、しどけない姿に変わる鬼気迫る変身ぶり。この2人に、さらにもう1人のジェーンなる女性が加わるのだから演じている当人も混乱してくるに違いない。この3人の人格をジョアン・ウッドワードは驚嘆すべき演技力でやってのけた。彼女はこの演技で1957年のアカデミー主演女優賞とゴールデン・グローブ女優賞を獲得した。イブ・ホワイト(ジョアン・ウッドワード)は、夫ラルフ(デヴィッド・ウェイン)との間に一人娘のボニーがいる。普段は内気で貞淑な主婦だが、突如変身して娘を絞殺しようとする一方で、高価で派手なドレスを買い、イブ・ブラックと名乗り、娼婦のような格好でナイトクラブに出かけ男と遊ぶ。その姿にイブ・ホワイトは苛まれるが、彼女自身にはその記憶がない。精神科医のルーサー(リー・J・コッブ)は「多重人格」という診断を下し治療を試みる。2人のイブが交互に顔を出す豹変ぶりにルーサーもラルフも混乱し、ラルフとの結婚生活は破局を迎える。そして、さらに3人目の女性ジェーンがイブの中に登場する。ジェーンは聡明で思いやりがあり、恋人もできて、結婚を申し込まれるが、彼女自身が「多重人格者」であることを認識しており、結婚には踏み切れない。ジェーンは、2人のイブが死なない限り「多重人格」からは解放されないと感じている。そして幼児期のトラウマが、2人のイブを作り出したことに気付く。それは祖母が死去した際、母親から強制的に棺桶の中の祖母にお別れのキスをさせられた経験に起因していたのだ。それが発端となり、ジェーンは過去の記憶を取り戻していく。その結果、2人のイブは死んで、ジェーンだけが生き残る。ジェーンという知的で自らの病状を客観視できる3人目のイブが現れたことで、イブは救われるわけだが、ジェーンがどのような経緯で登場したのかはこの映画では明らかにされていない。治療の途中で突然変異的に現れたように描かれてはいるが……。判断は精神病理学の専門家に任せるということなのだろう。真摯でひたむきなカウンセリングを行う精神科医のルーサーをリー・J・コッブが好演している。名脚本家ナナリー・ジョンソンが監督と脚本を担当しており、そのドキュメンタリー風の語り口にはサイコサスペンスの雰囲気もあり、最後まで目が離せない。ブルーレイによるモノクロ映像の美しさが素晴らしい。ジョアン・ウッドワードは故ポール・ニューマン夫人。本編 92分。HDワイドスクリーン 1920x1080p、モノクロ シネマスコープ、音声 英語 DTS-HD マスター・オーディオ 1.0ch(ロスレス)FXXC-1413、日本語字幕付き/吹き替えあり(TV放映時の70分のみ)、特典付き(オリジナル劇場予告編のみ) イブの三つの顔 [Blu-ray] 関連情報
オススメのDVDとして紹介していただきました。レンタルショップにはなかったので、購入して見ました。「魂」のお話として考えると、とても興味深く、納得できるものでした。 イブの三つの顔 [DVD] 関連情報