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Wolfgang Sawallisch Wolfgang Sawallisch

私達はある曲が演奏される時、その曲目が良く知られていればいるほど演奏者の個性に興味を示す傾向がある。確かに個性豊かな演奏はしばしば魅力的だが、作曲家の書いた原点に注目する場合、その個性が枷になってしまうことも往々にしてあることを忘れてはならないだろう。サヴァリッシュの演奏は大見得を切るような個性や斬新な解釈などには殆んど無関心のように思える。しかし作品と演奏の間には、あえて言うならば黄金比のような絶妙なバランスが常に保たれていて、しかもきめ細かな創意工夫が随所に聴かれる。彼はその再現に徹するだけで全く恣意的な意図は感じられない。こうした指揮者としての姿勢を貫くにはそれを裏付けるだけの作品への深い見識と豊富な経験が不可欠だろう。例えばブラームスの第1番の冒頭は音量ではなく、音響のバランスでその荘重さを見事に感知させている。この演奏を聴くまで私はこの曲の始まりの部分が、余りにも不釣合いなこけおどしのようで好きになれなかったが、サヴァリッシュがブラームスの考えていた楽想を代弁してくれたという気持ちになった経験がある。EMIにもかなりの量の録音を遺したサヴァリッシュだが、先だってEMIコリアからその全集が彼の追悼盤としてリリースされた。一方こちらのイコン・シリーズはベートーヴェンとブラームスの交響曲全曲を中心としたより簡易な8枚組で、サヴァリッシュの誠実で安定した至芸をロイヤル・コンセルトヘボウとロンドン・フィルの2つの名オーケストラで鑑賞できるセットとしてお薦めしたい。ブラームスに関しては全曲セッション録音だが、ベートーヴェンでは交響曲第8番及び第9番の2曲がライヴから採られている。サヴァリッシュらしくどの曲にも精緻な采配が行き届いているが、決してそれがスケールの小さい神経質なものにならず、また情熱にも不足していない。ライヴで見た彼の指揮はオーケストラの団員に細かく指示を出す冷静かつ実質的なもので、決して抽象的な仕草をすることがなかったのも印象に残っている。その指揮法は最年少指揮者としてバイロイトに登場したワーグナーのスペシャリストとしては意外かもしれないが、実際には大編成の楽劇ともなれば注意深く八方に目を配らなければならない実務的な必然性から、こうした統率力が培われたのかも知れない。[CD1]ベートーヴェン:交響曲第1番ハ長調Op.21、同第3番変ホ長調Op.55『英雄』(1993年)[CD2]同第2番ニ長調Op.36(1993年)、同第8番ヘ長調Op.93(1993年ライヴ)[CD3]同第4番変ロ長調Op.60(1991)、同第7番イ長調Op.92(1991年)[CD4]同第5番ハ短調Op.67『運命』、同第6番ヘ長調Op.68『田園』(1991年)[CD5]同第9番ニ短調Op.125『合唱付』(1992年ライヴ)以上アムステルダム・ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団  ソプラノ マーガレット・プライス、メゾ・ソプラノ マリャーナ・リポヴシェク、テノール ペーター・ザイフェルト  バス ヤン=ヘンドリック・ローテリング、デュッセルドルフ楽友協会合唱団[CD6]ブラームス:交響曲第1番ハ短調Op.68、『運命の歌』Op.54、『大学祝典序曲』Op.80(1991年)アンブロジアン・シンガーズ[CD7]同第2番ニ長調Op.73(1989年)、同第3番ヘ長調Op.90(1991年)[CD8]同第4番ホ短調Op.98、『悲劇的序曲』Op.81(1989年)、『ハイドンの主題による変奏曲』Op.56a(1990年)  以上ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 Wolfgang Sawallisch 関連情報



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