最近の来日公演でも、その年齢を感じさせない演奏を披露してくれたチッコリーニからインタビューで引き出した生い立ちや経験に裏打ちされた視点などをエッセーにまとめた本です。 分量的にはやや軽いものですが、内容はピアノ演奏家を目指す人や指導者には必須といってもいいような明言であふれています。特に声楽家に関する記述についてはピアニストに是非、読んでいただきたいと思いますし、クラシック音楽ファンもこの本を読むことで、ピアノ演奏に関する理解を深められること間違いありません。 正直な部分もあって余計にチッコリーニに対して好感が持てます。どんなオペラよりも、リート(ドイツ歌曲)の方が技術を要する、といいうあたり、個人的にはスッキリ!イタリアで生まれ育って、"エリザベート・シュワルツコップ"の伴奏を二年間も勤めたチッコリーニが言うのです。説得力があります。 ピアノやクラシック音楽に興味の無い方でも、一芸を極められるような人間がどういう人なのかを知ることで、ご自身の得意とされる分野などの参考になることも間違いないことでしょう。 翻訳は読みやすい反面、ドイツ語の固有名詞に関するきめ細やかな配慮や校正が不足しているため、やや不満が残ります。
内容の正確さに気を遣っているようですが、記譜サイズが小さいですし、他社版と比較すると運指も不親切で、この楽譜を使って譜読みをするのはかなり困難だと思います。とりあえず「一般のピアノ愛好者が演奏しやすいように」という配慮はほぼ皆無です。専門家向けの硬派な楽譜のように思いました。学術的な価値は高いのでしょうけれども、一般人にとってはtoo muchです。弾くことを目的にしているのであれば、運指や解説が優れている春秋社版をおすすめします。ただしペダル指示は非常に細かく、充実しています(3名のピアニストが加わっている)。和声進行の分析が細かいので、その観点でラヴェルについて調べている人には参考になることも多いと思います。 なお、この全集は3分冊になっているのですが、ラヴェルの生い立ちなどの全般解説の部分が3冊とも同じ内容で掲載されている点はいかがなものかと思いました。
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