はっきり言って、メタリカのメンバーはもう音楽活動をしなくても良いだけの金を稼いでいる。 あえてナップスターを訴えずとも、大金をもっているはずだ。 優雅に引退して、音楽は遊びで適当にやって生きていくこともできるだろう。 それに、多少手を抜こうが、CDもライブのチケットも売れるはずだ。
だが、彼らはそんな妥協はしなかった。周囲から何を言われようと、苦しみ、悩み、揉めながら、自分たちの音楽をより高みにもっていくことを選んだ。まさに音楽に命をささげているのだ。
私たちは結論を知っている。闇雲な勢いはあるが、つかみどころの少ない奇妙な作品『St.アンガー』。
そこにいたるまでの壮絶な過程が、真摯に、だが傍から見る分には面白おかしく記録されている。 ここまでバンドの内実に迫ったドキュメンタリーは少ない。 それに、メタリカのことをほとんど知らずとも、音楽に興味があれば、最後まで面白く観られるはずだ。 本質は、人間同士がぶつかりあって、作品を作り出すことの奇跡であり、それは人類が誕生してからずっと「芸術」の名の下に繰り返してきたことだからである。まさに名作だ。
長年バンドを支えたジェイソン・ニューステッド(Ba)の脱退後、「St.Anger」アルバム完成までのメタリカを追ったドキュメンタリー。メンバー自身の意向により撮影されたフィルムだという。 レコーディング風景、プライベート映像、そしてセラピストを交えてのディスカッションという3つの場面から構成されており、特に面白いのがディスカッション部分だ。
フィルムの序盤で、なかなかモチベーションの上がらないジェームズ・ヘットフィールド(Vo,Gt)と、それに苛立つラーズ・ウルリッヒ(Dr)、そして一歩引いて傍観者的な立場をとるカーク・ハメット(Gt)という3者の立場が明らかになる。 数回行われたディスカッションの中で、互いに言いたい事を飲み込んだまま、なんとかアルバム完成というミッションに集中しよう、という努力が図られるが、徐々にジェームズとラーズの対立が決定的となる。
結局、ジェームズはアルコール依存症のリハビリ施設に入所してしまい、フィルムの中盤では不在となる。(入所期間は約1年に及び、その治療過程は撮影されていない) ジェームズ復帰後も人間関係の問題が解決したわけではなく、セラピストやプロデューサーのボブ・ロックの助けも借りながら、長年メンバーが内に秘めていた感情を吐き出し、少しずつ歩み寄っていくというメタリカ再生の軌跡が撮影されている。
このフィルムで最も大きな変化を見せたのがジェームズだ。 少年期に両親の離婚、母親の死を経験し、人間不信の傾向があること。その狭量さからジェイソンのサイドプロジェクトを許容できず、彼を脱退に追い込んでしまったこと。マッチョを装っているが元々はナイーブな性格で、メタリカのフロントマンという重責に耐えるため、長年酒に溺れて二日酔いでステージに立っていた事などが次々に暴かれる。
彼はリハビリによって自分の弱さと向き合い、立ち直ることが出来たわけだが、その結果として「治療優先、家庭優先」というスタンスを明確にし、レコーディングへの参加を1日4時間に限定する、と決めた。
これに怒ったのがラーズだ。彼は自他共に認める「仕切り屋」であり、長年メタリカを引っ張ってきた立役者でもある。ジェームズの精神的な問題でレコーディングに制約がつくことに我慢ができない。「俺はずっとメタリカのために頑張ってきたのに、なんでジェームズはいつも自分勝手な理由でバンドの足を引っ張るんだ!」というわけだ。ついにジェームズに顔を近づけて「F**K!!」と彼を罵倒する。この瞬間、ジェームズの体が一瞬ビクンと反応するさまは実にリアルだ。
そこからどうやって関係を修復していったのか、それは限られた字数では言い表せないので、ぜひ実際にフィルムを見ていただきたい。 結果的に彼らはお互いを理解し、尊重することで以前よりも強固な絆を手にした。 例えば、かつてはラーズとジェームズが曲をまとめ、カークとジェイソンに指示するだけだった制作スタイルから、全員が歌詞からアレンジにまで平等に意見を出し合う、より民主的なバンドへと変貌を遂げた。 このような変化の中で、「仕切り屋」ラーズの不満が爆発する過程もあるのだが(アルバムタイトル決定会議では、彼の意見が却下された)、彼も徐々に新しいメタリカのあり方を受け入れていく。
終盤で見せるジェームズの晴れやかな笑顔や知的なまなざしは、視線も虚ろだった治療前の姿とは別人のようだ。メタリカ再生の過程は、彼自身にとっても再生への道筋だったのだろう。
はっきり言って、メタリカのメンバーはもう音楽活動をしなくても良いだけの金を稼いでいる。 あえてナップスターを訴えずとも、大金をもっているはずだ。 優雅に引退して、音楽は遊びで適当にやって生きていくこともできるだろう。 それに、多少手を抜こうが、CDもライブのチケットも売れるはずだ。
だが、彼らはそんな妥協はしなかった。周囲から何を言われようと、苦しみ、悩み、揉めながら、自分たちの音楽をより高みにもっていくことを選んだ。まさに音楽に命をささげているのだ。
私たちは結論を知っている。闇雲な勢いはあるが、つかみどころの少ない奇妙な作品『St.アンガー』。
そこにいたるまでの壮絶な過程が、真摯に、だが傍から見る分には面白おかしく記録されている。 ここまでバンドの内実に迫ったドキュメンタリーは少ない。 それに、メタリカのことをほとんど知らずとも、音楽に興味があれば、最後まで面白く観られるはずだ。 本質は、人間同士がぶつかりあって、作品を作り出すことの奇跡であり、それは人類が誕生してからずっと「芸術」の名の下に繰り返してきたことだからである。まさに名作だ。
単に一メタルバンドを超えて、際限なく膨らんでいったメタリカという存在、その怪物ゆえの 苦悩と葛藤が観れる貴重なドキュメンタリー。
ただ突っ走ってきた若い頃と違い、守るべき家族ができたことで葛藤、酒に溺れるジェイムズ 、あくなき追求心がジェイムズとの確執を生んだラーズ、自分のエゴを削ってでもメンバーの お手本になろうとする奉仕精神溢れるカーク、外に自分の力を試しに出たジェイソン、過去を 回想し後悔をみせるムステイン、実に忍耐強く、粘り強くメンバーを支える精神的支柱の ボブ・ロック、セラピーを通して知恵を授けるフィル・トウル、事務所の思惑など、それぞれ が悩みながらも、どうにか行動に移していく姿が人間臭くてリアルだ。
セイント・アンガーを初めて聴いたとき、なんじゃこりゃジャムセッションをそのまま、 出しちゃったのか?と思うほど、生々しい感じがしたが、この映画をみると本当に文字どうり 心身を削って創り上げたんだと感服する。 メタリカファンは必見だが、それ以外の人も音楽というものを創造する大変さや、泥沼に 嵌りながらも必死で生きる人間像に感動できると思う。と、いうより観て欲しいのかもなぁ、 一般的にメタルという音楽は、とかく悪者にされがちな所があって、過去にも事件があった時 犯人がメタルを聞いていたとかで、批判されたり、裁判沙汰なんて事まであったのが現状だが そうゆう偏見をもった人は、これをみれば恥ずかしくなるだろう。作り手がどれだけ人間的で ファンや社会に対して、勿論自分自身に対して責任をもって生きてるかが解ると思う。
言われてた程ショッキング?な内容ではないですが、
ドキュメント作品とすれば全然面白かった。
(しかもメタルバンドのだからね)
ウサン臭いセラピストにも笑えますが、
ジェイソンの間の悪さ&運の悪さ・・・。
正直なほど生真面目な彼の行動が裏目にでるあたりが悲しい(笑)。
リフを必死で覚えるカーク、
美術館でグラスを割るラーズ、
見所満載です。
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