アンチ・ミステリの大作「虚無への供物」で著名な作者の連作短編集。「虚無への供物」のイメージが強いが、本来は本作のような幻想性・夢幻性に満ちた短編が本領とされる。13の短編が収められている。澁澤龍彦氏の解説も楽しめる。
各々の短編は一応独立しており、それぞれに趣向が凝らされているが、緩やかな連鎖がある。登場人物達の言動の虚実の見せ方、時間の遡行等の手法が巧みに使用され、単にオチが良く出来ていると言うレベルを越え、読む者を幻惑感で包む。「地下街」を初め、妙にノスタルジックな印象を与える作品が多いのも特徴。なお、この「地下街」は澁澤氏が「この作品について、なにも語りたくない」と褒め言葉を放っている程、錯綜感と懐古趣味が入り混じった秀作。澁澤氏も述べているいる様に、一作一作を紹介するのは野暮な内容で、兎に角読んで見て下さいと言うしかない作品揃い。
深い理知に基づいて書かれていながら、読む者を幻想と錯誤の世界に引き込む佳品。
推理小説好きにはあまりにも有名な作品。 戦後の暗いイメージと物語の禍禍しさが見事にマッチして、おどろおどろしい雰囲気を盛り上げている。 作中、推理小説マニア達が集まって推理合戦を繰り広げるくだりがあって盛り上がるが、読後には何ともいえない虚無感に打ちのめされる。 遊び半分で殺人を扱ってはいけないんだよといわれてるようだ。 旧版は読んだことがないが、新装版は字が大きく行間も広いので読みやすいように感じた。ただし、上下2冊買わなければならないので、懐は痛い・・・。
私はこれを読んで、 「中井英夫」にハマりました。 探偵小説であって、探偵小説にあらず。 推理小説であって、推理小説にあらず。 上下巻の分厚さは、まるで感じません。 文章も平易だし、登場人物も それぞれ性格がしっかり描かれているので、 この類の読み物にありがちな、 「この人、誰だっけ?」 と読み返すこともありません。 「虚無への供物」…大仰なタイトルに躊躇していたあなた! 騙されたと思って、是非読んでみて下さい。
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