「シアワセじゃなきゃ死んだほうがまし」 メインキャラクターのセリフとしては今では有り得ない印象を受ける。
作家本人が選んだという表紙のカットは、 オリジナルよりすっきりしていて(とくに人前では)良いと思う。 不貞腐れた表情とワニ革の鞄、大げさなくらい内向きにひねったつま先 こういう見栄の切り方ができる漫画家はほとんど居なかったたし衝撃的だった。
初期の岡崎京子の漫画というとラフな絵のイメージが強いと思うが ここから『東京ガールズブラボー』あたりまでは明るめのこの絵柄で破綻もほとんどない。 描く世界に対して過不足無く、個人的に読みやすくて好きだ。
『リバーズ・エッジ』以前からイケイケの人間の傲慢さやネガティブな側面を描くのがとてもうまい作家で 凡百のおしゃれ漫画家とはその点で一線を画している。 この時期の作品はギャグへの毒の盛り方なども特異な才能を感じさせる。
漫画にしては値段が高いけど、その価値は十分あった。 普通の整形ストーリーはブスな子が整形をして美人になる過程が描かれるが、ここでは主人公はすでに美しく、人気の絶頂にある。(ブスだった頃の顔が一コマも出てこないのには感心した)確かに、美人になってめでたしめでたし、というおとぎ話には私たちは何の説得力も感じない。そこからどう生きるか、により関心がある。 主人公のりりこは美しくなるために体に極限まで負担をかけているため、精神と肉体がゆっくりと、しまいには加速をつけて崩壊していく。しかし、私は他の人が言うように、彼女は精神的に空っぽの存在ではないと思う。りりこは恐ろしいほどに本当のことがわかっている。自分の栄華が長続きしないこと、自分を欲する大衆が飽きっぽいことなどを十分に認識している。その恐怖に対して死に物狂いで挑む様に私は惹きつけられた。 敵役の検事が評するように、りりこほどタフな女はいないだろう。彼女の生き方は鮮やかな花火のようだ。そして、自分の欲望に忠実で、しかし本当に欲しいものは得られない悲惨な存在でもある。彼女は自分が孤独な存在であることもよくわきまえてそれで弱さも見せるが、絶対に屈服しない。「びしょぬれの同情なんかいらないだとしたら無視されるか笑いものになった方がまし」という言葉はほんとうにすごい。
裸の青春。夏木マリさん最高!今の甘いドラマに比べると加山雄三さんが教師役の高校教師良かったなぁ。あー、あの日に帰りたい。
この作品が発表された当時、若者の熱狂的な支持を集めたそうだ。 しかし、作品が単行本化されてから、もうすでに15年の時を経た。 15年というと、もうそれは「当時」と表現できるほどの時間だと思う。 この『リバーズ・エッジ』は感覚に訴える作品だ。 所謂、ストーリーを追いかけていって、感動する、恐怖する、悲しむタイプの作品とは違う気がする。 94年という時代に生きる若者の死生観、肌で感じる時代感覚を作品を読むことによって追体験できる作品のように思う。 つまりは、時代と密接に繋がった作品ということだ。 話が戻るが、15年というと、若者にとっては一世代違う。 もうこの作品は、今の若者とは時代感覚がずれてしまっているということ。 では、この作品はもう古いのか? そんなことはない。 僕は、今でもまだ何とか若者に分類される世代だと思う。 そんな僕がこの『リバーズ・エッジ』を読んだのが5年ほど前。 それでも鮮烈なものがあった。 ポップでオシャレな絵。 背筋が凍ってしまいそうなほど無機質な登場人物。 岡崎京子という人の研ぎ澄まされた感覚が、時代と密接に繋がった作品でありながら、いつの時代の若者も共鳴してしまう作品へと仕上げた。 岡崎京子という作家の天才性が、この作品を読むことによってビンビン感じられる。 ウジが湧き、白骨化していく死体を宝物だと言う山田君。 食べては吐き、吐いては食べる吉川こずえ。 若草さんが最後に流した涙。 何をしたいのか、何を求めているのか、それすらも分らないまま、生きている実感を追い求める彼らの姿は、時代を超えて、この先も残り続けるだろう。
|