1961年作品、主演女優若尾文子全盛期の逸品、若尾の数々の傑作や問題作に埋もれてあまり語られることのない作品だが、今回愛でたく祝DVD化、 本作で若尾演じる芸者はいわゆる小悪魔タイプ、決して根っからの悪女ではなく、他作品のような強烈な悪女キャラクタを期待すれば物足りないかもしれない、ただし当時、1年に5本・6本の主演をこなしていた時期のプログラム・ピクチャーにしてこの水準の仕上がりであることには誰でも驚くでしょう、 戦災孤児若尾は成人して神楽坂の芸者として暮す、近所の靖国神社には日課のように参拝している、神社や近所でよく見かける大学生藤巻潤に片思い、遂に言葉を交した藤巻も父は戦死していた、芸者から新宿のホステスへ、次いで愛人となり再び芸者に戻り、もし結婚できれば良き夫婦になれたであろう寿司職人フランキー堺との出会いと別れ、空襲で亡くした弟のような少年との情交、思いを寄せていた藤巻との再会では彼の見事な処世による現実の厳しさを思い知らされたり、と全編にただようそこはかとない無常感こそを楽しむ内容です、シーンが変わるたびに衣装も替わる若尾文子の艶やかさも楽しめます、 本作品ほど実際に靖国神社でロケをした作品はないと思われる、神社のシーンではまるで大砲の音のように太鼓を叩く音が流れるところが川島雄三らしいかも(実際の靖国神社で太鼓ななるのは祭礼の時のみで普段は静か)、遺族会を食い物にしているらしい上田吉二郎演じる代議士ともども監督が考える反戦表明らしい、 山村聰演じる若尾を愛人として囲う工務店社長だけはミスキャスト、フランキー堺と若尾の設定は後に向田邦子がある短編で引用している、デビュー直後の江波杏子はタランティーノにぜひ見せてあげたいと思わせます、
姿三四郎といえば超有名なキャラクターだが、小説は読んだことがなく、このアニメで初めてストーリーを知った。そのため、内容や登場人物の設定が原作と比べてどうだとか、そういう批評はできないが、作品としてはなかなかよかった。
若き日の夏目漱石(金之助)を登場させたのはアニメのオリジナルだと思うが、これは大成功。いいキャラだし、三四郎とのさわやかな友情が、ドラマを優しいものにしていた。三四郎と乙美のロマンスも、純情で共感できる。
肝心の柔道シーンの描写も、結構迫力があった。これは一種の“スポ根もの”と言えるのかもしれないが、努力や根性を押しつけがましく出すとこもなかったし、柔道の派閥争いの部分も、男臭くなりすぎなかったのがよかったと思う。適度に笑いも入れて、ちょっと痛快でさわやかな青春ドラマに仕上がっている。西城秀樹さんと岩崎良美さんの声も、雰囲気をよく出していた。
ただ、弁士役の落語家が、話術は素晴らしいと思うものの、作品全体から見れば、必要なかったのでは? という気もした。また、こういう評価は適切ではないかもしれないが、前作の「坊っちゃん」のほうが良かったかな? と思う部分で、星4つにしておいた。
とにかく、見たあとには心地よい清涼感が残る。文学作品のアニメ化、などと考えずに、楽しんで見てほしい。
中村吉右衛門主演「武蔵坊弁慶」総集編DVD発売 の文字を眼にしたとき、ひっくり返りそうなほど驚きました。人目がなければ万歳三唱したい気分でした。 吉右衛門の弁慶はもちろん、川野太郎の義経、菅原文太の頼朝、隆大介の平知盛、萬屋錦之介の藤原秀衛 などなど、配役がまた良いのです。 芥川也寸志氏作曲の「BENKEI」も物哀しく、作品に彩を添えてます。 勧進帳の安宅の関、ラストの衣川の合戦。名場面は多々ありますが、今でも鮮明に記憶しています。 これを見てしまったら、ほかの方の弁慶は見られません。 「宮本武蔵」「真田太平記」「武蔵坊弁慶」と三作続いたと記憶していますが、中でも一番強烈に印象に残っています。 多大な影響を受けた結果のひとつに、後年、卒論に「平家物語」を選んだほどです。
日本における古典的名著の一つと言える。 今日、ビジネス書で武士道が見直されているようであるが、生きる方向を見失いつつある現代のビジネスマン必読の書といっても過言ではない。 一つ間違うと、攘夷派的ビジネス思想のバックボーンにもなりかねないが、明治の混乱期において、愚直なまでの生き方を貫いた主人公の姿は、混沌とした現代を生きる我々に勇気を与えてくれる。 個人的には、宮本武蔵や坂本竜馬を凌駕する日本的ヒーローの物語であると考えている。 このような書物が容易に手に入らない現在の日本の出版事情は絶望的なのか?
誰でも知っているけど、読んだことないのが「姿三四郎」。大衆小説に限らず、忘れられた作家や作品をよみがえらせるのは至難のわざであるが、この著者は「姿三四郎」とその作者の富田常雄にかんして、見事にそれをなしとげた。
調べの進みぐあいを実況ふうに入れながら、「姿三四郎」という作品の面白さを多面的に読み解き、同時に作者である富田常雄という作家の姿を、生き生きとよみがえらせる筆致は、見事なものだ。
手間もヒマも元手も十分かかっているのに、調べて書くよろこびが素直に伝わってくる軽やかな文章もいい。のめりこみすぎず、適度につっこみを入れながら、しかし親愛に裏打ちされている感じも。
貴重な写真もかなり掲載されており、良心的な本作りだ。巻末の単行本リストや映画化作品一覧リストなども、著者以外に必要とする人がいるとは思えないけれども、貴重な仕事。
泉下の富田先生もきっと喜んでおられるでしょう。「よしだ君、一本!」
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