この作品が出版された当時、
イラストレーターのきたのじゅんこさんのファンで
そのイラストが装丁に使われているのを見て
飛びついた記憶があります。
物語は三代に渡る女性たちの三部形式。
それぞれに趣の異なる時代設定で綴られています。
作者のイアン・マクドナルドはSF作家として有名で
本書の第三部はお得意のSF風味がたっぷりです。
でもやはり、特筆すべきは第一部でしょう。
ヨーロッパで昔実際に起きた妖精事件をモチーフに
一人の少女の徐々に膨らんでいく幻想を丁寧に描いてあり
これから続く物語の発端を告げ、読者を引き込む魅力に富んでいます。
作品全体に漂うダークな雰囲気は
この第一部でゆっくりと形作られていくのです。
それぞれの時代を読み進み、第三部の主人公が辿り着く局面は
それまでの彼女達に繋がる、心理的な深さを感じられるもので
私にとって一番印象に残るシーンになりました。
はじめはノスタルジックなファンタジー、でもその実態は・・・。
この物語をどう感じるかは読者によって違うと思いますが
一度読んでみる価値は充分にあります。
Ian McDonaldと言えばKing Crimsonのオリジナルメンバーとして"I Talk To The Wind","The Court Of The Crimson King"の作曲者。そして歌はややボリュームがないが、フルート、サックス、キーボード、ギターをこなし、King Crimson、Foreignerで活躍してきたマルチプレイヤー。器用貧乏という言葉はやや言い過ぎだが、豊かな才能を持っているのにソロプレイヤーとしてはブレイクできなかったので関心があった。弱いボーカルは他の人に任せ、楽器を専ら弾くことに専念しているが、佳曲ばかりだと思う。特に”Forever And Ever”はドラマチックに、John Wettonをボーカルに起用することによって仕上げているのが特筆できる。Wettonのくどさも引き継いでいるけどまあ仕方ないか。
意外と最近少なかったりする。つまりサウンド・プロダクションは超一流で、ヘタウマ的女の子ボーカルというやつ。実際、ナチュラルカラミティの森俊二も全面参加のサウンドはかなりツボを押さえたカッコイイ出来だ。インストでも充分いけるクオリティの高さだと思う。そしてボーカルは確かに弱いし、目立った特徴もなく、別にこの人でなくてもよいといった感じではあるが、その匿名感こそがいいんじゃないだろうか。ジャケも、そういう意図があるのかも。で、実際見てみたら、結構美人だったりして、けど音楽的にはどうでもいいことみたいな。ともかくここにCHERIEというアーティスト名はついていて、全曲歌っているけれども、かなり存在としては希薄です。そこがこのCDのおもしろいところだと思いますね。
楽しみにしていたイアン・マクドナルドの久々の邦訳刊行は、近未来のインドを舞台にしたわかりやすい世界観の短編集です。
輪廻の発想が根付き長い歴史を持つインドという国の政体が変化し小国に分裂したらどうなるのか?その粗野でしかも洗練されているという文化と、サイバーと神話が渾然と解け合うような一般認識がまず魅力的です。
その中で生きているのは子供から徐々に大人になってゆく少年や少女が中心。若い世代ならではの感性や夢がみずみずしく描かれていて、普通に青春小説として楽しめるような作品ばかりです。 逆に、「火星夜想曲」あたりの印象からイアン・マクドナルドの魅力だと思っていた、明るさの仮面の下の痛ましさ、凄絶な感情の動きが静かな世界の中で様式化されたような特徴は鳴りを潜めてしまったように思います。
一般的にはその分ずっと取っ付きやすくなっているはずなので、過去この作家に興味を覚えなかった方でも手に取る価値はあるでしょう。個人的にはあの痺れるような痛ましさを様式化した世界がなつかしく、面白かったけれど残念な作品でした。
ここ数年低調だった翻訳SFの中では、かなりいい。SFと文学の両方の伝統をよく受け継いだ良作である。 ていうか、ある意味でズルいよ、これ。読んでる途中でブラッドベリとかマルケスとかを初めて読んだときの印象がぶあーっと頭の中をかけめぐるんだわ。たぶん、作者も過去の作品群へのオマージュとして、いろいろなイメージを積極的に利用しようとしているし、それは成功している。 それを抜きにしても、独立した物語として十分に楽しめる。ユニークなアイデア、独特の詩情、奇妙な整合性がある。何世代にもわたって登場する人物それぞれが、きちんと存在感をもっている。 ユーモラスで、残酷で、ありきたりで、へんてこな物語がお好きな人はどうぞ。
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