明治時代の作家たちが、なんとも面白い、なんともハチャメチャな奇想天外な小説を書き残してしていることのわかる1冊。 中学、高校で学習したいわゆる前向きな、なんとも味気ない文学史とは異なる温かみのある「もう一つの文学史」がここに完結しています。明治から大正時代にかけて生きた多くの人々の多彩な生きかた、豊かな想像力をうかがい知ることができます。 まさに、日本の「失われた時」を想像力で旅したい人のための文学史です。
『近代日本奇想小説史 明治篇』は重い一冊だった。重量・価格だけのことではない。 著者一流のユーモラスさは確かにあるのだが、同時に「自分にはもう時間がない」というある種の諦観が端々の行間から滲み出ていたからである。 (近年、氏は精神的な病いを患っている) なんというか横田氏の壮大な遺言の序章のように思えて、気軽に読後レビューを書く気にはなれなかったというのが私の正直な気持だった。
だが本書はもっとカジュアルに手に取れる。そう、あの『日本SFこてん古典』のように。『入門篇』といってもクオリティーはいつもどおり。 昭和40年代から最近まで執筆した雑誌・月報原稿を凝縮、奇想小説ならSFでも探偵小説でもなんでもあり。 図版もタップリ、巻末には各章の解題まで付けた楽しい本になった。 戦後児童向仙花紙本の章は番外篇というには目玉すぎる内容だし、古書収集家としての想いを綴った「幕間」における氏の姿勢を全面的に私は支持する。 自分の持っている古書の市場値を吊り上げたいだけの喜国雅彦周辺や、ヤフオクでブルドーザーのように古書を買占め回っている森英俊のような、 古書を株かなんぞと履き違えている輩とは月とスッポンの横田氏の誠実さに読者はきっと共感する筈だ。
幸いな事に『明治篇』刊行時のイベントに姿を見せた位なので、氏の体調も復調の兆しありと思いたい。ファンは皆、『大正〜昭和篇』を早く読みたくて仕方ないのだ。 こうなったら何時までも気長に刊行を待つ。あせらずのんびりで構わない、体調と上手くつきあいながら作業を進めていってくれればいい。
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