人はどのようにして目の前の問題を解決しているのかという大きな命題に対する考察です.問題解決のプロセス(理解,解決,吟味)において,人間のどのような心理的機能が使われ,それらがどのように連携しているのか,非常に難しい問題です.この問題が解明されると人間と同じ感情や柔軟な解決能力を持ったコンピュータやロボットが誕生するのでしょう.
本書では,石を山頂に運ぶ仕事をする男,ブラジルへ移り住む女,二十四の瞳の子どもたちといった文学作品の主人公たちを例にして問題解決の諸問題を解説していますので,難しい問題ながら読みやすくなっています.
「認知科学」という言葉の初使用は、1970年代初頭の英国と著者はいう。それから現在まで、専門家を主に研究が続けられてきたと本書で分かる。
日本認知科学会の創設は1983年、現在の会員数は同会のサイトによると一般会員(正会員、学生会員)約1400名という。つまり、専門家といっても限定的ということだ。しかし、本書が明らかにしているように、21世紀の「知の営み」にとって認知科学は不可欠である。その意味で、この書が啓蒙の役を果たされることを期待する。
本書は触れていないけれども、「人工知能=AI」という言葉がある。これは認知科学を含め幾つかの科学、技術を応用してコンピュータの性能を飛躍的に高めるものとして80年代半ばにアメリカ、日本でフィーバーした。1985年に筑波科学技術博のアメリカ館はAIデモンストレーションを積極的にした。同時期、アメリカでもAIブームが起きており、産業界で一種の革命が始まるかと期待されていたのである。日本でその当時、マネジメントの世界でMIS、第5世代コンピュータ開発に沸いてもいた。現在、日本の人工知能学会は、正会員が2520名、学生会員407名で、同会サイトは「残念ながら本年度も減少に歯止めが掛からなかった」と率直に記している。産業界において人工知能は一般的なこととなってきていると察せられる。
認知科学は、人工知能と違って産業化にはやや遠い位置にある知の営みだ。しかし、1990年代半ば以降のインターネット、デジタル技術の発達と普及が人に及ぼす影響は、かつての産業革命が人に及ぼした影響以上に甚大だと言える。その影響は、つまりは「心と脳」に深く関係するものだけに21世紀にあってそのことを探究する認知科学が重要性を増すのである。 1990年代終わりに登場して脳科学の普及に貢献した茂木健一郎氏の活躍は、正当な認知科学の普及、浸透に役立つとは考えられない。あまりにも通俗的、「アハ」的であるからだ。著者ならびに茂木氏を含め関係者は、認知科学がより正しく、しかも時代の発展と人の成長に役立つよう努力されたい。本書は、認知科学の進化途上での一里塚である。多くの市民の座右にあって役立てられることを期待する。
デジタル世代ともいうべき若い世代への期待とともに、現世代へも熱いエールを送る誠実な書。 著者の国際的な活躍を背景に、話題はワールドワイドです。 これから時代がどう変化していくのか、変化の中で生きる日本、日本人はどうあるべきなのか。 とても考えさせられます。 インターネットで容易に海外と対話ができる時代。世界が小さくなるとともに、ますますコミュニケーションツールとしてのことばが重要になる。さらには、ことばを支える人間性を磨かなければ、ただのバカとして世界中から相手にされなくなるというそういう時代になったなと思いました。
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