歴史研究のタブーとされる『if』を敢えて持ち込むことで、、『当事者達はなぜその決断を下したか』『それ以外の選択肢はなかったのか』『他の選択をしていたらその後の歴史はどのように展開したのか』などのテーマについて考察を加え、太平洋戦争をより深い観点で研究しようとした力作。作家としても著名な研究家が執筆陣に名を連ねた事で、現実に起こり得た『もうひとつの仮想戦史』としても読み応えのある内容に仕上がっている。 厳密な図上演習を通じて指揮官たちの心境を執筆者自ら体験しようとするなど、巷にあふれる仮想戦記のような自らに都合のよい『if』は極力切り捨てて客観に徹している。特に本土決戦の『if』は戦争経験のない我々の世代でも、紙面からもその凄惨さを十分感じ取ることができる項であった。 やや残念だったのは戦艦同士の砲撃戦や機動部隊の対地攻撃能力を過大評価しているきらいがある点で、レイテ海戦などは『本当にそんなにうまくいったのか』との疑問が残った。 ということで評価は、(星5つにしたかったが)1つマイナスで4つとした。
「歴史にifは禁物」とはポピュラーな謂だが、 実証史家で好著の多い秦郁彦氏による 「絶対不敗は可能だったか?」ほか、 先の大戦における計10篇の「if」を収録する本書。
禁物であるはずの「if」を設定することで 見えてくる戦訓・教訓。 本書各章の「if」は、それぞれ 勝てるはずもない戦に突入した愚かさを炙り出す。
[ハワイ作戦]及び[ミッドウェー作戦]を、 出版社の会議室で実際に図上演習した模様を収録した章や、 日本本土上陸作戦[オリンピック作戦]及び[コロネット作戦] が実施された場合を考察した章の迫力は、一読に値する。
しかし本書が、表紙にある通り「序 半藤一利」「編 秦 郁彦」 であることはいま一度確認しておいた方がいい。 半藤氏によるテキストは「序」6頁のみ(図演に参加していたり、 本書の成り立ち全体に関わっていることは判るのだが)。 秦氏によるテキストは章ふたつである。
表紙のダブルネームは確かにその通りではあるが、 あざとさは禁じえない。
そしてこの二人を含めた延べ8名の著者による各章の構成には、 決まったフォーマットがないため読みづらく、 よって章ごとの質の差も目についてしまう。
この本が半藤氏と秦氏の共著であったなら、 或いはせめて対談集であったならば本書の数倍面白かっただろう、 という「if」が私の結論である。
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