まず、「半自叙伝」は菊池寛が文藝春秋社を立ち上げるはるか前、彼が一人前の作 家にようやくなったところまでを書いたものです。 で、「無名作家の日記」は、菊池寛が京大に在学していたときのことを書いたもの。 恩師である上田敏と友人の芥川への鬱屈した感情を赤裸々に書いているため、これ を読んだ知人が心配になって菊池寛に大丈夫ですかと聞いたほどの内容です。彼の 怒りや焦りが全編にわたって書かれています。上田敏に対しては自分が文壇に出る ための助力をしてくれないことへの失望、とことん傲慢でいやなヤツとして描かれ ている芥川に対しては、嫉妬と反発といったようにです。ただし、菊池寛の伝記的 事実を私はあまり知らないので、ほんとのところどうだったかはわかりません が・・・ また、これらとは別に上田敏と芥川について、彼らが亡くなったあとに書いたもの も収録されています。「無名作家の日記」とは違い(菊池寛的には「無名作家の日 記」はただのフィクションらしいので)この二人に対する強い愛惜の念に満ちた文 章です。上田敏がその功績や資質が正しく評価されず晩年は不遇であったこと。芥 川については、彼が自殺する直前、何度か菊池寛と話そうと彼のところを訪れたり していたけど果たせず、菊池のほうは忙しさにかまけてそのままにしていたそうで す。だからなおのこと芥川の自殺は菊池寛にとってかなりショックだったでしょうね。
もうだいぶ前、「POO−SUN」が初CD化されたときだとおもったが、ライナーに、「ダンシング・ミスト」は当時ライヴで当たり曲で、この曲のためだけに1枚のLPが製作された、という記述があり、びっくりした覚えがある。 自分は「ススト」で初めて菊地雅章を知ったので、70年代の活躍をリアル・タイムで経験していない。だから、そういった、ヒット曲でアルバム1枚、というコマーシャルなことを、アノ菊地雅章がやったといことがどうしても信じられず、そのアルバムがなんなのか、調べることさえしなかった。
あれから十数年たち、初CD化となった本作が、どうやら件のアルバムだったらしい。 しかし、内容は、期待はずれで大変すばらしいものだ。 ギターレス、ツイン・キーボード、ツイン・ドラムスによるシクステットという特異な編成で、弟がハモンド・オルガンを弾いている「ダンシング・ミスト」は、マイルズの「イン・ア・サイレント・ウェイ」を思わせるところもあり、なかなか刺激的だ。その曲で菊地雅章はエレピを弾き、もう1曲の「イエロー・カーカス...」の方では、弟にエレピを弾かせ、自らはアコピを弾いている。その弾き分けも興味深い。 昭和45年11月という時代を考えれば、当時の日本のジャズ・シーンでは、恐ろしく先端的なパフォーマンスではなかったか。しかも、大変聴きやすい。この、フリーに走らなくても高品位でなおかつ親しみやすい音楽を演奏できた、ところに、昔の菊地雅章の凄さがあるのだとおもう。
ちなみに、今回の再発シリーズでは、オリジナルLPのライナー・ノーツもそのまま復刻している。 最近、このパターンを踏襲するレコード会社が多くなってきたが、良いことだとおもう。昔のジャズLPのライナーには面白いものが多かった。他のレコード会社も大いに見習って欲しい。 ただ、欲を言えば、この値段でジャケットを紙にしてほしかったな。
【追伸】 「ダンシング・ミスト」でアルバム1枚--は、本アルバムの事ではないとのことです。 コメント欄のgrant blueさんからの情報です。感謝致します。
一曲目、20分の演奏になる「ダンシング・ミスト」を聴いた時、 どこかで聴いたことあるなあ・・・と思ったら、 映画「ヘアピン・サーカス」のサントラで冒頭に収録されていた、メインテーマそのものでした。 その他、4曲目「Yellow Carcass in the Blue」も、サントラに使われています。 その他、「E.J」などは4ビートでグイグイ引っ張るハードな演奏。 クールでシャープ、色っぽいサウンドが刺激的です。
菊地雅章(p,el-p), 峰厚介(ss,as), 市川秀男(el-p,org), 池田芳夫(b,el-b), 日野元彦、村上寛(ds), 岸田恵二(per) 1970年9月7日、9日録音
赤面しちゃうような台詞も昼ドラなら許されてしまうのが不思議です。あまりにドロドロで不幸が続く中、一服の清涼剤は種彦くんです。 放送当時は大反響を呼び、視聴者に支持されて視聴率も上がっていくと、役者さん達もどんどん乗ってきて生き生き演じているのを感じます。
すれ違いと不幸の連続でラストまで悲恋という有りがちなパターンですが、日常から離れた空間を味あわせてくれたドラマです。
横山めぐみさん、葛山信吾さんも回が進むごとに目の輝きも増してきて役に入っています。 また面白いと思える作品に出て欲しい二人です。
昼ドラはゴールデンタイムの作品に比べると低予算では無いかと思いますが、人を引き付ける作品は予算有る無しは関係無いかもしれません。
菊池寛の短編集ともなると、 「恩讐の彼方に」「忠直卿行状記」「藤十郎の恋」といった定番代表作は絶対にはずすことはできません。 ですから、他の短編集とはちょっと違うよという「個性」を出そうとすれば、お馴染みの定番作以外に一体何を載せるかというところが腕の見せ所になってきます。
そんな、定番以外の作品選定のセンスが、このちくま文庫版は素晴らしい。 正攻法の感動作から、ユーモアたっぷりの小品まで。バラエティに富んだ品ぞろえです。 しかも、巻末の解説を執筆するのは、先だって亡くなったばかりの井上ひさし氏。 これが、いかにも井上氏らしいウィットに富んだ名エッセイになっており、これだけでも一読の価値があるというものです。 まさに、巻頭から巻末まで一分のスキなし。 初めて菊池寛を読む人には、私絶対、このちくま文庫版をすすめますね。
定番作はもちろん、文句のつけようがないほど素晴らしいのですが、それ以外のところで個人的におすすめなのが「島原心中」 検事の目を通して人間の業の深さに迫る異色作ですが、実は、文豪森鴎外にも、遊里での心中事件を扱った「心中」という傑作短編があるのです。 同じような題材を扱いながら、それぞれの小説から受ける感じはすごく違います。 菊池寛と森鴎外。二人の文人としての資質の違いが非常にはっきり見て取れて、私はとても興味深かったですね。
あと、もうひとつのおすすめは「弁財天の使い」 昔話のようなほのぼのとした物語を読み進み、結末に至ると、「やられたあ」とのけぞり、しばらく笑いが止まらない。そんな秀逸なオチを持った佳品です。 「うまい!」と、思わず膝を打つ、これほどの「やられた」感は、なかなか味わえるものではありません。 才人、菊池寛の手腕を、是非ご自分の目でお確かめ下さい。
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