チャンドラーの原作とストーリーも結末も異なるが、個人的には、この作品の世界の雰囲気こそが原作に忠実と思う。アルトマンらしく、登場人物たちも細かに描かれていて、非常に魅力的。ほぼ全シーンで煙草を燻らすエリオット・グールド演じるマーロウの格好良さ。スターリング・ヘイドンの酔っ払い演技も見物。そして、様々なアレンジで流れるジョン・ウィリアムズによるテーマソングも秀逸。
The soundtrack album contains all emotional instrumentals from the Long Good-bye OVA. Plus 2 theme songs performed by Takako Ohta. As a Creamy Mami/Takako Ohta fan, you should NOT miss this CD!
フィリップ・マーロウの世話ぶりから推測すると、テリー・レノックスという人物は人を引きつける魅力をたっぷり持っているのだろう。 彼は大富豪の娘と結婚もした。 しかし、良かれと思ってしたことが他人を凄まじい混乱に引きずり込む、という運命を彼は背負っているようだ。 以下ネタバレです。 戦争で捕虜になり、命は助かったものの顔の負傷や過ぎ去った時間のことを考え、彼は結婚したばかりの妻のもとへは帰らないことにした。 するとその元妻が近所へ引っ越してきてしまう。 そして彼の妻(シルヴィア)が元妻(アイリーン)の夫(ロジャー)と不倫をする。 そのことに気付いたアイリーンがシルヴィアを殺してしまい、テリーは勝手にアイリーンの罪をかぶることにする。 テリーの行動は一見理不尽だが、冒頭部分の彼の言動には何かそういうことをしそうな気配が漂っている。 「これ以上君(マーロウ)に迷惑をかける理由がなかった。誰かに助けを求めるのは簡単なことじゃない。特に何もかもが自分のせいだという場合には」 「僕のプライドはそれ以外に何も持ち合わせていない人間のプライドなんだ」 「僕のような人間は生涯に一度だけ晴れがましい瞬間を持つ。空中ブランコで完璧な離れ業をやってのける」 「(シルヴィアの)父親に対する目眩ましのような役割をつとめるだけじゃなく、いつかもっと真剣に自分が必要とされる時が来るんじゃないかと思ってね」 テリーは歪で極端な使命感を持った人なのだ。往々にして極端な使命感は人を危険にする。そのうえ歪とくれば救いようがない。 フィリップ・マーロウもこう言っている。 「次にロールズロイスの中に倒れている礼儀正しい酔っぱらいを見たら逃げ出すべきだ。 自分で自分に仕掛ける罠がなにより質の悪い罠なのだ。」
松田優作の代表作であるTV版「探偵物語」。主人公の工藤ちゃんは当初の企画では
ハンフリー・ボガードのような正統的なハードボイルドの設定だったとか。それに違
和感を感じ賛成できなかった松田優作が現場であのようなキャラに変更したらしい
が、そのときイメージしていた探偵像がこの「ロング・グッドバイ」のエリオット・
グールドだったらしい。
原作とはストーリーを変えて、また従来のマーロウもの(ボガードやロバート・ミ
チャムが主演していたような)とはまったく異質な出来に仕上がったこの作品だが、
むしろこっちのほうが実は原作の雰囲気をだしてるのでは?という気がする。清水
俊二さんも書いてるようにチャンドラーの猫好きを活かしてもいるし。
なかなか味わい深い映画です。
「ギムレットには早すぎる」で有名な本書。名台詞があるだけでなく、作品の完成度も優れており、ミステリーの範疇におさまらない、一流の文学作品に仕上がっています。先ほどの台詞は物語の最後の鍵となっているので、未読の皆様はギムレットを飲むときに隣の女の子にそっとささやくだけでなく、出自を確認しておくのは礼儀だと思います。 駄目なテリー・レノックスになぜマーロウはそんなに手をかけるのかよくわからない面が多々ありますが、本書から男の生き様について教わることは多いはずです。男は我慢しなければならない局面がいっぱいあります。自分に好都合のことでも、マーロウは自分の信念に正直なのです。つまり自分の信念が No といったら絶対にそちらを選択しません。本当損な生き方をしているのですが、マーロウは自分を変えません。その生き様に私たちは震えるのです。 今回で3回目の再読。いつも私たちに新しい感動を与えてくれる本書はいつまでも手放せません。だんだん本書のマーロウの年齢に近づいていく私ですが、マーロウの生き様に近づけるのはまだまだのような気がします。いくつになっても本書から教えられることばかりなのでしょう。こんな場合マーロウはどうするのか。こんなことを考えながら、数年後また手にとることでしょう。それにしてもローズのライムジュースで作ったギムレットを飲んでみたい。
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