懐かしい風景と70年代の熱気が伝わる名作。戸部夕子が好演。
小説の前半で二つの殺人事件とその容疑者の死が描かれ、後半を事件に疑問を抱いた休職中の刑事が独自に捜査したものを上司に報告した「特別上申書」という形で構成されていて、前半が問題編、後半が解決編といった具合です。 通常、こうした場合に刑事がなぜ事件に疑問をいだいたのか?というのはある種のパターンがあって、例えば、捜査中は無関係だと思っていた人物が被害者と関連があったことが後から分かる、などというのがよくあります。この作品では再捜査を決意させる展開が実に上手い。そして恐ろしい。ある意味事件そのものより恐ろしいかもしれません。この作品にはこうしたパターンのひねりが随所に見られ、小説として深みを与えています。これが処女作というのだから、「笹沢左保」はただ者ではありません。 この作品、いわゆるトリックが満載。アリバイ、密室、暗号など、処女作だけあって作者に意気込みが尋常ではありません。しかし、この作品の最大のみそはそこにあるのでなく、別にあるのです。ややもするとトリック満載の本格物は「はたして、犯人はそんな面倒な方法で人を殺すだろうか?もっと簡単な方法があるのでは」という突っ込みが入りがちです(第二作の「霧に溶ける」はこうした問題が顕著です)。もちろん、この作品もそうした部分がない訳ではないものの、最後に明かされるミソの部分が上手く機能して「こうした犯人ならこうしたこともするかもしれない」と思わせて、リアルティを確保している部分がすばらしいです。 私的オールタイムベストには必ず入れる一品です。復刊されたのは、喜ばしい。 もっとも、今持っているのは旧光文社版。以前は角川版も持っていたのですが笹沢氏が亡くなられた時に布教(笑)のために知人にあげてしまいました。という訳であくまでレビューは旧光文社版についてになります。 で、早速、新版を本屋に注文しました。来るのが楽しみ・・・
時代小説が好きで今までも鬼平や眠狂四朗にはまりましたが、木枯し紋次郎は特に良いです。時代小説のジャンルを超えた おもしろさがあります。名作なので全十五巻再販してほしいです。
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