岐阜県との県境にある福井県大野市の九頭竜ダムは、紅葉の名所として知られている。このダムの建設を巡っては、昭和39年に「最高額」で入札した鹿島建設が落札したことにより、汚職がなされたのでははないかとの疑惑を持たれたことがある。しかし検察のメスが入ることはなく、真相は闇の中である。 この疑惑をもとに石川達三が小説として構成したのが『金環蝕』であり、社会派の映画監督として知られる山本薩夫が映画化した。一応フィクションではあるものの、かなりの程度、真実に迫っているのではないかと思わせる出来映えだ。
本作に登場するのは全て架空の人物・団体であるが、実在するものをモデルにしていると言われている。多くの人物が描かれているが、いずれもストーリーの形成に重要な役割を果たしているので、映画(または小説)を鑑賞する際には登場人物が現実の誰をモデルにしているか押さえておくと理解が深まると思う。
映画は宇野重吉、三國連太郎、西村晃等の俳優陣の演技が素晴らしく、作品に重厚な深みを与えるのに寄与している。小説と比べると細部が省かれているのはやむを得まい。映画も小説もともに完成度は高いのでどちらもお薦めできる。
安倍政権について「政治と金」が問題とされたが、そのような出来事も単なる些事としてしまうような「政界と財界の癒着」というより深い闇が、今日も政治の底流にあるのかもしれない。
「周りは金色に輝いて見えるが、中の方は真っ黒に腐っている」 ――金環蝕
全共闘時代が時代設定にあるお話。 江藤顕一郎という成績優秀、頭脳明晰、見た目も申し分ない法学部の学生が自分のエゴイズム、地位・金を求める過剰な上昇志向ゆえに人生を踏み外してしまうという話。
江藤は、資本主義社会を弱肉強食の荒々しい世界だと捉え、法律という武器を身につけることでこの世界で生き残り勝ち上がっていこうと考える。 行動は非常にエゴイスティックで実利的・打算的である。
司法試験合格を目指しながら、資産家である伯父の令嬢と結婚し遺産を獲得することで安定した地位を得ようと行動していく。
家庭教師をしていた際に教え子だった登美子と関係が続いていて、彼女の方は江藤を愛しており、家庭の問題もあり他に頼るものがいないことからも江藤を求める。しかし、江藤は彼女のことを肉体的な欲求を満たすための女としてしか捉えておらず、伯父の令嬢と結婚するために登美子との関係をいずれ一掃しようと考えている。
江藤は自分の人生計画を達成していく上で、様々な策略を実行していくが、最終的にはそれがすべて破綻し、道を踏み外してしまう。この江藤という人間は、自分を含めて多くの現代の若者と重なるイメージを持っている。上昇志向が強く、エゴイスティックであり、倫理観が低く、そしてある特定の分野以外には全く無知で社会を経験的に知っていないにも関わらず、自分は万能であると考えている。そしてそれゆえに失敗する。道を踏み外す。
彼の母親が彼に言ったように、「何よりも大事なのは、誠実さ」、これがこの本のメッセージの一つであり、自分や若い世代が身につけなければいけないものだ。 生き方としても、成功していくという意味においても長期的にみれば誠実さは欠かせないものだろう。
著名人・成功者やアニメ・漫画・小説でかなり極端な生き方がかっこいいようにもてはやされ、多くの若者に支持されることが多いが、現代はかなり「危うい」考えの若者が増えているのではないか。
読んでいる時に、何度も自分の事を考えさせられた。
「真相は薮の中」。そんな映画です。
森繁は偽装心中の嫌疑で起訴された雑誌編集長を演じています。 法廷での関係者の証言による回想場面で森繁は、ひとりの人物を様々に演じ分けていて、 この映画を観た後にずっしりと残る“凄み”は、森繁の“技量”と、心中相手の役の左幸子の “狂気”に因るところが大きいように思われます。
この時期森繁は、アチャラカものも含め、多くの映画に出ており、DVDになってるものも 多くありますが、森繁の“凄み”を体感したい方、この作品はオススメ。
70年代特有のざらついていて活力はあるのに
しらけた気持ちしか沸いてこない、そんな空気がこの映画にはある。
そしてそんな空気を体現している俳優・萩原健一ことショーケン。
鬼才・神代辰巳監督と組んだこの映画はひたすら暗く、
行き詰った焦燥感が映画全体の雰囲気を重くしているが、
ショーケンが演じるとかっこよく見えてきてしまうのだから、
つくづく希有な俳優だなぁと思える。
藤原ていの「流れる星は生きている」の巻末に出てたので、作者と題名から読んでみた。
兵士というと、愛国心旺盛で勇敢で多少粗雑で多少教養が少なくて等と全体を画一的に
見てしまいがちだが、市井のいろんな境遇の普通の人間が、いかにして「兵士」になるかがよくわかる。
作者の現地取材に基づいているだけに、描写も生々しい。
兵士の回想や会話がすごく印象深かった。
現代から見ると全くの別世界のようだが、長い歴史の中でほんの曾祖父世代くらいの出来事であり、
現世に生きる我々世代は、せめて戦争についていろんな角度から知り、検証し、次の世代に平和な
世の中を残していかねばならないことをあらためて実感させられる。
今後、もし戦争がおこったらと、リアリティーをもって読むべきだと思う。
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