誰しもがどうしても忘れられない言葉を持つものだ。 私にはこの本の一篇に収められた詩人の言葉がそれにあたる。 かつて私に希望の言葉として響いたこの言葉は今も失われていない。 彼は著作のうちでパリは人を選ぶと言い、また自らが招き入れられたのだと言う。 「ティボーがパリに選ばれた」そのことがどれだけの意味を持つというのだろう。 恐ろしいことのようにも感じる。 しかしことを判じるのに憚りを感じる。 パリが選んだのは二度と現れない者であったからではあるまいか。 とてつもなく強大な力の坩堝となるところのパリで生きることのできる選ばれし者― つねづね天才には努力の才が多分に含まれるものと思うのだが、 そのことはまるごとティボーにあてはまるにちがいない。 ティボーに語ったヴェルレーヌの言葉が忘れられずにいるのだ。
1939年録音SPのLPへのメロディア復刻盤からのCD(グリーンドア)の音よりラッパ再生音の録音の本盤の方が音ののびやかさが断然良い。演奏自身が艶やかなのだろうか、若いからかキレも熱情も伝わる。このCDでティボーをクライスラーよりも初めて良いと思った。
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