原作はハードカバー上下巻の大作かつ、ペダンティズムの極みなので、 2時間で終わる映画は、逆にありがたいところでしょう。 異端審問や教会の教義などについては普通の日本人には理解できないでしょうし…。 原作は衒学がありすぎてミステリーなのかどうかも埋もれるくらいですが、 映画では僧院を舞台にした見立てものの連続殺人事件というかたちですっきりまとまっていて、分かりやすいです。 ただ、犯人が被害者を選んだ理由がもうひとつ説明不足かも…。 ふつうは原作を読んでいると映画はつまらなくなるものですが、 本作の場合は珍しく、原作を先に読めば原作を理解する助けになるし、 映画を先に見ればその背景にあるものをより深く知ることができるという、珍しいタイプの作品。
かたく透き通った、とても美しい音のピアノ曲。タイトル通り、夜の空にひとりでしんと耳をすますと宇宙から聴こえてきそうな星の音、星の燃える音、ぶつかる音...それらを音曲にしたような星の音楽です。ピアノでこれを表現したのがすごいです。楽譜も発売されているのでピアノ弾きさんは挑戦してみては。
本作品の舞台は中世イタリア。欧州最大規模の蔵書を誇る辺境の修道院。宗教会議の会場となるその修道院で修道士が変死体で発見される。 修道院院長は元異端審問官のウィリアムにその調査を依頼、ウィリアムが弟子のアドソを連れてこの修道院に姿を現すところから話は始まる。 第2、第3の事件が起こり、修道院は混乱。開催された宗教会議も決裂となるなか、ウィリアムは調査をすすめ真相に迫る・・。というのが大筋。 迷信渦巻く中世において、理性的に科学に基づいて捜査をすすめるウィリアムの知性と師に質問を重ねる弟子アドソの姿が印象的。 ミステリーや歴史ものというよりも、私は著者のエーコが現代社会に対する警句を発している評論のような印象を受けた。
作品のなかでは信仰や学問をテーマに印象的な師弟間のやりとりが交わされる。 「唯一の過ちを考え出すのではなく、たくさんの過ちを想像するのだよ。どの過ちの奴隷にもならないために」
「純粋というものはいつでもわたしに恐怖を覚えさせる」 「純粋さのなかでも何が、とりわけ、あなたに恐怖を抱かせるのですか?」 「性急な点だ」
「恐れたほうがよいぞ、アドソよ、預言者たちや真実のために死のうとする者たちを。なぜなら彼らこそは、往々にして、多くの人びとを自分たちの死の道連れにし、ときには自分たちよりも先に死なせ、場合によっては自分たちの身代わりにして、破滅へ至らしめるからだ。」
「真理に対する不健全な情熱からわたしたちを自由にさせる方法を学ぶこと、それこそが唯一の真理だからだ。」
ウィリアムのこれらのセリフこそエーコのメッセージそのものであると思える。
思いが純粋で、切実であるほどに、生じる「性急さ」や「不寛容さ」こそ、エーコ(=ウィリアム)が警告する「不健全な情熱」であり、この事件の真犯人であると思えた。 善意や正義の持つ両面性、自由に生き、考えることの難しさについて深く考えさせられる作品です。
「薔薇の名前」がとても好きなので、文庫化された時にすぐに買って読み始めた物の・・・とても読みにくかったです。 理由はただ一つ、訳が問題なのです。 他の方もレビューに書かれていますが、普通ならあり得ない言い回しを利用するというのは雰囲気ぶち壊し。訳し方が古いと言うわけではありません。とにかく読みにくい。 全体的に難解さを増してくれている訳に負けて、ずっと放置していました。その後全部読み切りましたが、殆ど意地でした・・・ ところどころ面白い箇所で引き込まれる物の、描写の訳が解りづらく着いていけないこともしばしば。何度読む手が止まったことか。 なので翻訳物が苦手な人にはオススメできません。面白いからなおさら残念です。 もう一度誰か訳し直してくださったら読み直したい本です。
14世紀、ヨーロッパ。修道院。異端審問。黒魔術のごとき連続殺人。こう聞いただけで、めくるめく中世の迷宮に迷い込んでしまい・・・・気がつくと、誰もが犯人に思えてきてしまう。・・・・ある修道院を訪れた修道士ウィリアムと、その弟子アドソ。すらりと伸びたクリスチャン=スレーターの肢体と同様、伸びやかで純粋なアドソの若い心。師匠の過去を知り師匠への思慕を深めるアドソ。最初にして最後の女性となる少女と、心が触れ合った瞬間。もう2度と会うことのない少女と一言も交わさず、別れていくアドソ。そう、薔薇の名前も聞かずに・・・・・。連続殺人の謎解きに綯い交ぜられた、クリスチャン=スレーター演じるアドソの物語こそ、この真っ暗なおどろおどろしい映画の中に咲いた一輪の瑞々し!い薔薇であろう。
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